2008年最終公開版のDebian Sarge 3.1 r8をインストールするために、VirtualBox仮想マシンを作成します(ホスト環境 Mac OS X)。
Oracle社による仮想環境 VirtualBox
VirtualBoxは、x86/Intel64/AMD64 PCアーキテクチャを対象とした仮想環境であり、ORACLE社がソースリストと共に公開しています。
VirtualBoxが稼働するホスト環境としては、Windows、Mac OS X、Linux、Solarisの4種類が用意されています(ホスト:VirtualBoxを起動するOS、ゲスト:VirtualBoxの仮想環境上で実行されるOS)。本稿では、Mac OS X上での操作手順を紹介しています。
- VirtualBox ホームページ https://www.virtualbox.org
- VirtualBox ダウンロードページ https://www.virtualbox.org/wiki/Downloads
- VirtualBox オンラインマニュアル(英文) https://www.virtualbox.org/manual/UserManual.html
仮想マシンの新規登録
VirtualBoxを起動すると、次のようなマネージャ画面が表示されます。
Debian Sarge用に、新しい仮想マシンを作成するので、ウィンドウ上段左側の"新規"アイコンをクリックします。
作成する仮想マシンの名前と、インストール予定のOSを指定します。今回は、Debian Sarge用の仮想マシンを作成しますので、名前に"Debian Sarge"と入力しました。VirtualBoxは名前を解析し、OSのタイプを"Linux"、ディストリビューションを"Debian"と、自動的に選択します。適切に選択されなかった場合は、手動でプルダウンメニューから指定します。
次に、仮想マシンで使用するメモリ容量を指定します。今回は、デフォルトの"384MB"のままで良いでしょう。
仮想マシンを起動するためには、外部記憶装置(ハードディスクドライブ、フロッピィディスク、CD-ROMなど)が必要になります。開発環境用のサーバーを運用するためには、ハードディスクドライブが必須ですから、"仮想ハードドライブを作成する"を選択します。
Live-CDやフロッピィディスクのみで運用する場合、仮想ハードドライブは必要ありません。
仮想環境上では、ハードディスクドライブは単体のファイルでエミュレートされます。VirtualBoxが操作可能な仮想ハードディスクドライブのファイルイメージは、全部で6種類ありますが、通常は"VDI (Virtualbox Disk Image)"形式を使用します。
ここで、64GBの容量を持つ仮想ハードディスクドライブを準備したとしますと、対応するファイルイメージは64GBの大きさとなります。実際には、この一部しか利用しない訳ですが、これではホスト環境のファイル資源を無駄遣いしてしまうことになります。そこで、VirtualBoxでは仮想環境でのファイル使用量に応じて、自動的にファイルサイズを拡張する機能を提供しています(縮小機能はなし)。今回は、この"可変サイズ"機能を選択します。
次に、仮想ハードディスクドライブの名前とサイズを指定します。上記例では、"Debian Sarge"と名付け、ドライブサイズとして2GBを手入力しています(デフォルトサイズは8GB)。GNU開発サーバ(デスクトップ環境なし)の構築が目的であれば、2GBで十分です。
仮想マシンに関連するファイル群は、ユーザのホームディレクトリの中に自動的に作成される、"VirtualBox VMs"フォルダの中に格納されます(Windows版も同様)。これ以外の場所に格納する場合は、名前の右にある、フォルダアイコンをクリックします。
新しく作成した仮想マシンに関連するファイル群は、先ほど指定した名前(Debian Sarge)のフォルダ内に配置されています。2GBの仮想ハードディスクドライブの実体である"Debian Sarge.vdi"は、可変サイズ機能のおかげで、最初はわずか12KBのサイズしかありません。
以上で仮想マシンのセットアップは完了し、新たに登録された"Debian Sarge"のマシン環境がマネージャー上に表示されます。
この内容を見ると、ハードディスクのコントローラにはSATAインターフェース、EthernetネットワークアダプタにはIntel PRO/1000MTが接続されています。
最新版のOSでは、このハードウェア環境で問題ありませんが、Debian Sargeのインストーラは、SATAコントローラを認識できないため、インストール途中でエラーとなってしまいます。
IDEインターフェースへの切り替え
そこで、旧式のインストーラが正しく認識できるように、ハードディスクインターフェースを古典的なIDEインターフェースへ切り替えます。
SATAコントローラの削除
まず最初に、VirtualBoxマネージャに表示されているDebian Sarge仮想マシンの"ストレージ"をクリックします(マネージャー上部の"設定"ボタンからストレージを選択することも可能)。
初期設定状態では、IDEコントローラには"空"の仮想光学ドライブ、SATAコントローラには仮想ハードディスクドライブ(実体はDebian Sarge.vdiファイル)が接続されています。SATAコントローラは、今回の仮想マシンでは使用しないため、削除します。
SATAコントローラを選択した上で、サブメニューを表示させ、"コントローラーを除去"という項目を実行します。
IDEコントローラにホストのCD-ROM/DVD-ROMドライブが接続されている場合
設定状態によっては、IDEコントローラにホストの光学ドライブが、接続されていることがあります。
ホストの光学ドライブ(上記例では"MATSHITA DVD-R")を選択し、右側のウィンドウに表示されているCD/DVDドライブのプルダウンメニューをクリックすると、IDEコントローラの4つの接続先が表示され、ホストドライブが接続されている箇所には、チェックマークが表示されます(上記例ではIDEセカンダリマスター)。
IDEコントローラには、プライマリとセカンダリの2チャンネルが存在し、それぞれマスターとスレイブを接続することができます。昔のPCでは、ハードディスクドライブをプライマリマスター、光学ドライブをセカンダリーマスターに接続する習慣がありました(CPUの割り込み番号がプライマリ・セカンダリに独立して割り当てられているため、より効率的な転送が期待できる)。
ホストドライブがIDEコントローラに接続されている場合、ホストの光学ドライブにCD-Rを挿入すると、ゲスト環境から直接アクセスできるという利点があります。しかし、ゲスト環境が動作している間は、ホスト環境上で光学ドライブを扱えないという問題も生じます。
VirtualBoxには、CD-ROMやDVDなどのISOファイルイメージを仮想ドライブに見立てる機能が用意されているため、物理的なホスト光学ドライブは不要になります。そこで、CD/DVDドライブのプルダウンメニューの右側にある、CDアイコンをクリックし、"仮想ドライブからディスクを除去"を実行します。
先ほどまで表示されていた、ホストの光学ドライブ名が消え、"空"と表示されます(仮想光学ドライブにメディアが未挿入であることを意味)。この結果、ホスト上の光学ドライブ本体はVirtualBoxから解放され、ホスト環境の支配下に戻ります。
IDEハードディスクの追加
"コントローラー:IDE"の右横には、一枚の円盤および三枚積み上げられた円盤、計2種類のアイコンが並んでいます。一枚の円盤は光学ドライブ、三枚の円盤はハードディスクドライブを意味しており、それぞれをクリックすると、新しいドライブが追加されます。今回は、Debian Sarge用にハードディスクドライブを追加します。
仮想ハードディスクには、既に作成している Debian Sarge.vdi イメージを指定します。"既存のディスクを選択"し、
"VirtualBox VMs/Debian Sarge"フォルダの中にある、Debian Sarge.vdi イメージをオープンすれば、
Debian Sarge.vdiが仮想ハードディスクドライブとして、IDEプライマリマスターに接続されます。
フロッピィディスク・ドライブの追加
せっかくですから、この機会に、仮想フロッピィディスクも使用できるようにしておきましょう。
ストレージ画面の下、4つ並んでいるアイコンのうち、右から2番目のアイコンをクリックすると新しいコントローラを追加することができます。
メニューの最下段にある、"フロッピーコントローラーを追加"を実施します。
マネージャ上に新しくフロッピィコントローラが表示されていますので、右側のフロッピィアイコンをクリックし、フロッピィドライブを追加します。
起動フロッピィディスクを使用する場合は、"ディスクを選択"をクリックし、ディスクイメージ(ファイルサイズは1.44MiB)を指定します。Debian SargeのインストールではCD-ROMを使用するため、"空のドライブ"を選択してください。
フロッピィコントローラの下にフロッピィデバイス0が接続され、その中身は"空"と表示されています。これは、先ほどの光学ドライブと同様、ブランクディスクという意味ではなく、ディスケットが挿入されていない状態を指しています。
以上で、ストレージ関連の初期設定は完了です。
起動順序の確認
PCが起動するためには、ブートローダー(初期化用プログラム)が書き込まれた、起動ディスクが必要になります。今回の仮想マシンでは、ハードディスク・光学ディスク・フロッピィディスクの3種類のメディアから起動させることができますが、もしも3つが同時に装着されていた場合、どのデバイスから起動するかを定めたものが、起動順序(initial boot sequence)です。
本物のPCでは、BIOS設定画面から起動順序を指定しますが、VirtualBoxでは"システム"から設定します。
起動順序の横にデバイスが並んでいますが、上から順番にスキャンされ、実際に接続可能であれば起動ディスクとして選択されます。デフォルトでは、フロッピィディスク⇒CD/DVD-ROM⇒ハードディスクの順になっています。チェックマークが外れていたり、起動順序がずれていたりすると、仮想マシンを起動できませんから、設定を確認しておきましょう。
ネットワーク・インターフェースの設定
VirtualBoxがサポートするネットワークは、デフォルトで"NAT (Network Address Translation)"が設定されています。NAT機能により、ゲスト環境から外部ネットワークには自由にアクセスできるのですが、ホストとゲスト間での通信はできません。
SSH接続などで、ホストからゲスト、ゲストからホストにアクセスする必要がある場合は、"ブリッジアダプター"を選択します(ゲストのIPアドレスは、ホストと同じネットワークアドレス上に割り当てられる)。
- VirtualBoxがサポートするネットワークモードについて https://www.virtualbox.org/manual/ch06.html#networkingmodes
次に、仮想マシンに接続する、ホストのネットワークインターフェースを指定します。"名前"の横に、現在接続されているホストのネットワークインターフェースが表示されていますが、クリックすると利用可能なインターフェース全てが表示されます。上記例では、MacBook Proの有線LAN(en0)がデフォルトで設定されており、次に無線LAN(en1)が並んでいます。
ホストが常に有線LANでネットに接続されていれば、"en0"のままで良いのですが、状況に応じて無線LANを使用する場合は、その度に"en1"へ切り替える必要があります。VirtualBoxには、ホストの利用状況に応じて、ネットワークインターフェースを自動的に切り替える機能はありません。
Debian Sarge用仮想マシンの完成
以上で、Debian Sarge用の仮想マシン設定は完了です。ポイントは下記の6点になります。
- 仮想ハードディスクドライブ(Debian Sarge.vdi)は、IDEプライマリ・マスターに接続
- 仮想光学ドライブは、IDEセカンダリ・マスターに接続(空)
- フロッピィディスクコントローラおよび仮想フロッピィディスクドライブ#0を追加(空)
- ネットワークは、ブリッジアダプターとして接続
- ネットワークアダプタに有効なホスト・ネットワークインターフェースが、対応していることを確認(有線LAN en0:Ethernet, 無線LAN en1:Wi-Fi)
- 起動順序を確認する(フロッピィディスク⇒CD/DVD-ROM⇒ハードディスク)
仮想マシンのブート
それでは、出来たての仮想マシンを起動してみましょう。マネージャの上段にある緑の起動矢印をクリックすると、Debian Sarge仮想マシンがブートします。
画面では分かりませんが、仮想マシン内部ではBIOSの初期化処理がスタートし、ORACLE社とVirtualBoxのロゴイメージが表示されます。しばらくすると画面は暗転し、
"FATAL: No bootable medium found! System halted. (致命的エラー:起動可能なメディアが見つからないためシステム停止)"というメッセージが表示された後、仮想マシンはフリーズします。初期化しただけの、仮想ハードディスクドライブ(Debian Sarge.vdi)には、起動コード(IPL:Initial Program Loader)が書き込まれていないからです。
仮想マシンを終了するためには、仮想マシンウィンドウの赤いクローズボタンを押すか、仮想マシン名を副ボタンでクリックします(閉じる⇒電源オフ)。
後者の場合は、サブメニューを通じて一時停止やリセットなど、より細かな制御が可能です。
Debian Sargeのインストールへ
以上で、仮想マシンの準備は完了です。続いて、ゲストOSであるDebian Sargeのインストールに進みましょう。